捏造ミステリーTRPG「赤と黒」

アナログゲームを触っていると、最近、推理ものの潮流が目立つ気がする。
もともと、ミステリーものの潮流は着実にあったのだけれど、ここ数年の、マーダーミステリーの勃興によって、また加速してる気がする。
 
 
マーダーミステリーというのは、ライブRPGのようなもので、典型例としては「殺人事件に居合わせた人々の言動をロールプレイする」ゲームジャンルのことです。
 
犯人プレイヤー以外は、プレイヤーの中に潜む犯人を探すのが目的で。
何とかバレずにやり過ごすのが犯人プレイヤーの目的……と聞くと、「人狼ゲーム?」と思うかもしれませんが、そうではない。
 
最初に各プレイヤーに渡される、各キャラクターの設定書には、今回の事件のアリバイや手掛かりだけではなく、今回の殺人には関係ないけど、秘密裡に達成したい目的とかも書いてあって、それぞれのキャラが完全に一枚岩の協力者という訳ではないのが、面白いところ。
さらに、ゲームの途中で、手掛かりを入手することもあり、結果として、他プレイヤーに「なんで、お前、部屋にこんなの隠してるの?」とか質問したり、「あの人、あのアイテムを探してたよ。何に使うのかは言ってくれなかったけど」とか情報交換したりして、自分の目的を達成しつつ、犯人を探したり潜伏したりする、というゲームになってます。
 
まぁ、これが面白い。
推理小説の中の登場人物をロールプレイできて、自分が名探偵になれるのか、それとも、最後の最後まで重要なキーワードをうっかり隠してて犯人のアシストをしてしまう迷惑なモブになるのか、という瀬戸際が楽しめます。
とはいえ、別に、犯人が誰なのかが、最後まで分からなくても、構わなくて。
証拠を探して、証言を疑って、他プレイヤーに弁明と釈明して、時には逆に詰問して、というのが本当に面白い。
 
明確な欠点として「1度プレイしたシナリオは、2度と参加できない」「何を話しても、ネタばれになるので、シナリオ未経験の人がいるところで、感想戦をすることはご法度」というのがあり。
まぁ、推理ものでは仕方ないよね、とはいうものの、極めて厳しい欠点があります。
  
シナリオも色々とありますが、TRPGの老舗メーカーであるグループSNEから、6~7人用の「何度でも青い月に火をともした」、9人用の「九頭竜館の殺人」が出てますので、これらをプレイする機会があれば、参加してみるのがオススメです。
名探偵は、「違和感を見逃さない観察力」と「閃きにも近い超高速の論理的思考」が必要と、本当に痛感します。
 
 
で。
今回紹介したいのは、捏造ミステリーTRPG「赤と黒」
ゲームコンテストの応募作を、グループSNEがディベロップして出版した、新刊です。
 
ストーリーとしては、イツワリという生命体が、何でもない普通の殺人事件などを、魔法を使って超常現象犯罪へと現実を書き換えてしまったので、このまま放っておくと、世界の秩序が破壊され混沌に沈んでしまう。
これにプレイヤーキャラクター達、コトワリの魔術師が対抗する、すなわち、魔法で真相を引きずり出し、魔法で証拠を捏造し、イツワリに対して攻撃を加えつつも、常識的な事件へと、現実を上書きしていく、という話になります。
 
「捏造? 冤罪を作るの?」というのは、人間の感覚。
そうではない、コトワリの魔術師がやるのは、現実の改変。
犯行の実行者や内容、手段自体を変更します。
 
よくミステリーもののドラマであるじゃないですか、被害者は悪人で、犯人に犯行に及ぶだけの事情があって、それでも、犯罪は犯罪だから「すれ違いが生んだ悲しい事件だった」とか、スカしたことを言って終わりにする話。
これは、人間の限界に過ぎません。
コトワリの魔術師は、真実を超越し、事実を書き換え、自らの理想の世界へ現実を作り替えます。
 
どんなに殺害計画を練ってるキャラがいても、実行に移さなければ、そして、他の人が先に罪を犯してしまえば、その人は罪も罰も背負う必要はなくなるのです。
 
まぁ、プレイ風景としては、
「この凶器、魔法でラグビーボールに変換します」「凶器がなくなったw」「じゃ、引き出しの中に金属製の置物を作り出します」「凶器、出てきたwww」
「魔法で、この人に尋ねます。お前は犯人か」「はい、そうです」「なるほど。犯人を捏造するのに邪魔だから、今の真実は非公開にしておきます」「酷いな、正義の味方www」
「魔法で、この人にスキルを追加します。この人は会計のスペシャリストです」「なるほど、粉飾決済の片棒を担ぐには充分です」
…など、ミステリーとは名ばかりの酷い光景が広がるんですが。
 
TRPGとして、オンリーワンのゲームに仕上がっているので、こうして紹介しているのですが。
多分、面白さの半分も伝えることができていないので。
TRPGなんてやったことがない」という方も、機会があれば参加してほしいと思います。